青森県藤崎町に建つ喫茶店併用住宅です。
敷地があるのはリンゴ畑や古い家屋の残るのどかな集落の端部、
河川の近傍であることから浸水災害の警戒地域でもありました。
課題はのどかな風景にふさわしいあり方と浸水災害への対策。
それらに応える解として、人工の丘の上に建築がある佇まいが生まれました。
丘の高さは想定される浸水水位である2m。
てっぺんに建物を置いて、裾野を敷地一杯に広げることで
緩急様々な傾斜面が建物の外周に生まれています。
盛土で人工的に造られた丘の表面には芝生とクローバーの種を撒いて
これからは周りの草花と混ざり合って馴染んで
どこまでが人工でどこまでが自然かわからなくなっていきます。
訪れる人々はこの2mの高さの丘をテクテク登山することになります。
丘を上がる階段は束ねた枕木。上がりきった後のアプローチは現場打ちコンクリートの踏み石。
階段の途中、建物の大開口からは奥の中庭に植えられたケヤキが見えます。
店内には客席が全部で12席。(テーブル席8席、カウンター席4席)
カフェにとって空間の居心地は最重要であるため、訪問客が好みの
居場所を能動的に選択できるよう差異をつけています。
テーブル席は勾配天井の頂部、最も天井が高いスペース。
床面よりも大きな二枚の窓に挟まれた開放的な居心地。
カウンター席は勾配天井の端部、最も天井が低いスペース。
壁に空けた岩木山の良く見える小さな覗き窓と向かい合うこじんまりとした居心地。
天気の良い日には中庭のケヤキの下のベンチでコーヒーを楽しむこともできます。
大きくないカフェ空間にとって、トイレの入口の存在感は不要だと考え
壁にスリットが入っているだけの扉のデザインにしています。
トイレ内まで内装材を統一し、ミラーや絵画を建築の一部として取り込むことで
単なる余剰空間ではなく大切な一つの部屋として扱っています。
背後の住居部分へは屋根の軒下を通って出入りできます。
丘の斜面と屋根の斜面を同時に感じられるアプローチ。
住宅部分はカフェ部分と同素材で仕上げることで建物全体として
分断の無い一体感を感じられます。
居間と寝室を分ける壁を天井まで立ち上げず途中で止めることで
どこにいても大きな屋根面を感じられる開放的な住まいです。
丘の上、ケヤキの木の下に佇む白い大屋根の建築の風景。
丘を上り下りしたり建築空間を体験すること。
それらの全てが心象風景として残って、続いていくことを考えました。