建て主さんとのメールのやり取り

先日初めてのプレゼンをしたクライアントさんから

素敵なメールを頂きました。

読んでいて嬉しくなるような感心するようなホッとするような。

ここに掲載する許可を頂けたのでご紹介します!

(設計担当 葛西 瑞都の返信文もありかなり長文です)

葛西瑞都さま

こんばんわ。週末は寒波の予報ですね。〇〇(敷地の場所)の〇〇(氏名)です。

さて、10月以降のご縁、お礼申し上げます。

そして、先日の模型作成とリノベーション・新築のご提案ありがとうございました。

きちんとしたお返事ではありませんが、まずはお礼を伝えたくてメールしました。


建築の知識が全くない私ですが、やはり思い入れのある住まいと庭を

「生かしたい」と言っていただけたことがうれしかったです。


これまで、家族の事情や転勤により10回くらいの住み替えをしてきました。

一番小さかったのは、6畳の学生寮、トイレ・風呂・キッチン共同です。

一番大きかったのは、建て替えられてしまいましたがお寺の隣にあった○○町の本家(5LDK・延べ約80坪)。

これまでの住まいを通して、こじんまりとした生活が性に合っていると感じています。

なので、〇〇(敷地の場所)の建物面積の中にテラス(部屋以外の発想)に驚かされました。


そして、平屋のリノベーションが初という率直なお返事にも、驚かされました。

だけれど、やってみようと思ってくれた感覚が潔くて素敵だなと思いました。

いくつか、住宅展示会にも行ってみたのですが、きれいすぎる空間に慣れていないせいか、気後れしてしまったり。

なので「すでにもう古い」という葛西さんの言葉がとても印象に残っています。

あわせて、築40年をリノベーションしてからの30年後ってどうなっているのかな?という素朴な疑問も浮かびました。


話は変わりますが、仕事柄、日々多様な生活を目にします。

バリアフリー戸建てを満喫する方。

オフグリッドな住まいでしっぽのある相棒達と暮らしている方。

好きな物に囲まれて過ごされる方。

人の住まいやすさの多様さに驚く日々です。

なので、葛西さんたちのように住まいづくりにかかわる方々の仕事は、とても奥が深いのだろうなと思います。


日々、相手の望む生活に耳を傾けることばかりしていると

自分でどうしたいのかを意識するのがいつの間にか、後回しになっているような気がします。

でも、せっかくのミズイロさんとのご縁をいただけたので、自分では何が希望&生理的に好きなのか改めて考えてみました。

あの模型を見て、真剣にならねばと。


岩木のリトルヌックさん、居心地の良さを感じます。図書館の資料室の雰囲気も好きです。

松ヶ枝にある美容室も、空間が好きで通っている感じがします。

千年にあるテニスコートに2階建ての休憩小屋&トイレがあるのですが、なんだか落ち着く空間です。

通っていた保育園が、弘前偕行社にあったのも、少し古くて暗い空間に落ち着きを感じるのかも知れません。

もうありませんが、大鰐スキー場にあった小屋(コロセン)はじめ、仕事でも小さな山小屋で過ごす時間も多くあったせいか

狭い空間に必要なものだけがある安心感も好きです。銀水食堂・デギュスタ・酸ヶ湯の湯治場の雰囲気も。


東北ですと、岩手県、光原社内の復元した住まいにもびっくりしました。

母方の実家が古い薬屋さん(聞いたら1877年創業)で、間口の狭くて奥に長い蔵と坪庭・縁側のある造りだったことも、

古い雰囲気に惹かれる理由かもしれません。

西日本・岐阜県高山市「わらべ民芸」など、狭い土地にお店と住まいが一緒になっていたことが思い出されます。


知らず知らず、長く通っている場所は、自分の好きな空間なんだなぁと気づかされます。


こじんまりを望むならば、アパートでもいいじゃないの?とも。

でも、〇〇に惹かれるのは、季節と庭が近くにあるからだと思います。

最近は、書籍「cabin porn inside」をめくっています。


12月の後半、家族にリノベーションの提案図面を見せる時間がとれそうです。

彼らの反応をキャッチする前に、私の個人的な感想を伝えたくてメールしました。

とりとめのない内容、読んでいただきありがとうございました。


週末は寒波のようです。ご自愛ください。


追伸:先日お邪魔したミズイロさんの事務所の天井も、素敵でした。

お寺の軒下など、構造を眺めるのも飽きないものですね。

〇〇(氏名)

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〇〇(氏名)様


お世話になっております!

先日は初回のプラン打ち合わせにも関わらず

ボリューム感のあるプレゼンテーションになってしまい、

少しプレッシャーのようなものを感じさせてしまったような

心配を勝手にしておりました。


〇〇(氏名)さんからの丁寧で親切な文章に稚拙ながら応えさせて頂きますと、

〇〇(氏名)さんがこれまで暮らしてきた住まいを振り返って頂いて

こじんまりとした空間が落ち着くことが伺えました。

仮にリノベーションでプロジェクトが進んだ場合に

その30年後はどうなるか?という疑問も大事な要素です。


これは建物の寿命に関する僕の個人的な考え方なのですが

建築が出来上がってから解体されて無くなるまでの寿命は、

実は建築自体の耐久性とか頑強さとか性能の良さとは全く

無関係なのではないかと思っています。

建築が永く使われる一番大切な要素は「愛着」だと思っていて、

愛着の無い建物はコンクリートの丈夫な構造でも20年くらいで取り壊されますし、

愛着のある建物はボロボロの木造で雨漏りしたり寒くても100年以上使われますよね。

「新しい」とか「高性能」ということは、その建築の良し悪しの判断基準にならないんです。


僕が〇〇(氏名)さんのプロジェクトをリノベーションに拘るのは、今までの家族の愛着が

沁み込んだ「古さ」というのは新築ではつくれないからです。少しずつ手を掛けて、

もしかしたらたまには不便に感じるかもしれないけれど、うまく建物と付き合っていく

ことができれば築年数なんて些細なことだと考えています。

そういう意味で僕は、床面積や性能は足りていても新築やアパートの暮らしは

勿体ないなと思っちゃうんですね。


あともうひとつ、僕にとってリノベーションという作業は修理の意味ではないんです。

修理っていうのはある意味でこれまでの経過を無視してその部分を新しくすること

なのですが、僕はこれまでの経過をそのまま残してこれからの未来に向けて方向調整

してあげたいんです。今回のご提案で余分だった部屋を外部テラスにして空調負荷を

低減し、暮らしと庭がより絡まるようにしたのもそういう考え方でした。


最後にウチの弘前オフィスをお褒め頂きありがとうございます!

〇〇(氏名)さんが好きな空間のバリエーションが、名建築からその辺りにあるような庶民的な

建築まで無分類なのがとても素敵で、その中に僕たちの建築がある事がすごく嬉しいです。

次回のお打ち合わせも楽しみにしております。〇〇(氏名)さんもご自愛くださいね。


ミズイロアーキテクツ

葛西 瑞都

 

以上でした。

クライアントさんと僕たちとのやり取りを、なんだか無性に

紹介したくなりまして、最後まで読んで頂きありがとうございました!

葛西 瑞都