ホームページには掲載していませんが、
昨年完成した建物のひとつに
オーディオルームがある住宅があります。
通常そのような空間を設計する場合、
音響計画とか音響設計とか形式的な
名称がありますが、このブログのタイトルは
「音響」という文字は使わずに「音」だけに
しました。
理由は簡単で、僕は音響に関してはほとんど
素人だから。建築士の免許取得時に少し
勉強した程度なので、「音響計画」といった
本格的な名称は気が引けました。
そんな僕ですが、建築と音の関係に興味が
生まれたし、知識として学びたいとも
思ったので、この物件を通じて考えたことを
少し書いてみます。
この写真がオーディオ機器の全景です。
疎い僕でも、建て主さんの音楽に対する
愛着がすぐにわかりました。
中央のたくさんの機器はプレーヤーからの
音の強さを細分化して増幅したり
高低を調節したりする部分。
手前にはレコードプレーヤー、サイドには
大きなスピーカーが配置されています。
建築側のささやかな工夫をいくつか。
背面の大きな引き違い窓は以前の古い家と
同様にしていて、機器背後の配線作業を
窓を開けて外から行えるようにしています。
厚手のカーテンや床のカーペットは
音の反復を抑えて残響時間を少なくしています。
機器自体は稼動時に振動しますが、
それらが置かれている部分の床が共振して
音にノイズが生まれるのを防ぐため、
機器が置かれる部分だけフローリングの
下部にコンクリートを充填して振動を
抑えています。
壁面と天井面には木の格子を前面につけて
音の響きを増幅。天井の格子と壁面の格子との
間は3センチ位空けて、反響した音が最後に
周囲に逃げるようにしました。
あと写真にはありませんが、コンセント等の
配線にも気を使っています。
これらのアイディアはどれも建て主さんの
要望と工夫から実現しています。
この部屋をつくって僕が感じたことは、
音響について考えることの
「難しさと楽しさ」です。
「音の良さ」というものには実体はないし
数値化も比較もしにくい。専門の業者が
絡まない場合、個人の主観的な感覚が
判断基準になることが多いと思います。
今回の工夫によって、音響がどれくらい
良くなったのか?というシンプルな問いは
多分すごく難問です。
これが僕の感じた「難しさ」の部分。
次に「楽しさ」の部分。
つい先日この部屋にお邪魔して、
建て主さんが集めたレコードやCDを
聴かせてもらう機会がありました。
部屋の一番良い場所に座って楽器が
鳴り出したとき、まるで本人のライブを
目前で鑑賞しているようにクリアで分厚い
音が耳に飛び込んできました。
あぁ、建て主さんはこの音が
聴きたかったんだなぁととても感動したし、
ひとつひとつの工夫がこの音をつくる為に
役立っている実感が確かにありました。
多分これが「音響」について考えることの
一歩目で、これから体感するたくさんの
建築について、音についても注意深く
あろうと思いました。
葛西 瑞都
2018年5月 7日 (月曜日)